この10年で時計は確実に以前よりカラフルになった。2010年の時点では、高級時計といえば、白や黒の文字盤にシルバー系のステンレススティールケース、せいぜい赤い針が1本という無彩色のものが主流だった。しかしこの状況はすぐに変わっていった。文字盤やストラップがカラフルになり、ラバーなどの素材がデザイナーの色彩感覚を刺激するようになったのだ。10年代後半になると、まずブルー、そしてグリーンのモデルが登場する。このふたつのトレンドは、現在も続いている。しかし2021年には、まったく異なる色合いのグレーが脚光を浴びるようになった。
驚くべきは、これらのグレーの時計のどれもが、一般的にグレーと結び付けられるグレーに見えないことである。少なくとも、人々がグレーから連想する、無骨で、退屈で、目立たないという印象がない。これまでよりもずっとカラフルで多様な時計のステージに、これらの時計は堂々と登場しているのだ。たとえ高級時計であっても、技術的な実現可能性と社会的な受容性の両面から、どんな色でも考えることができる時代である。グレーはもちろん、グリーン、ブルー、レッドなど、さまざまな色がある。そのような中で、あえてグレーを選ぶことは、2010年当時とはまったく異なるステートメントとなっている。